疾患概要
動脈硬化が原因で起こる病気です。動脈硬化によって動脈が狭くなる部位もありますが、逆に膨らんでくる血管もあります。動脈が膨らんで大きくなると破裂する危険性があります。多くの場合には症状がないことが多いのですが、破裂すると救命できずに死に至ることが多い病気です。ある程度大きくなった大動脈瘤は破裂予防のために手術を行います。
胸部大動脈瘤
1.胸部大動脈瘤とは
大動脈瘤とは一般的には大動脈の直径が正常の1.5倍を越えたものを言います。胸部においては4.5cm以上に拡大したものを胸部大動脈瘤と言います(図1)。多くの場合は無症状であり、症状が出現する頃には動脈瘤はかなり大きくなっている事が多く、無症状のまま破裂する事もあります。
図1 大動脈瘤の形態・原因・部位による分類
胸部大動脈瘤の瘤径別イベント発生率
動脈瘤最大短径 | 1年間の破裂率 | 1年間の解離率 | 1年間の破裂/解離率 |
---|---|---|---|
~4cm未満 | 0% | 2.2% | 2.2% |
4~5cm未満 | 0.3% | 1.5% | 2% |
5~6cm未満 | 1.7% | 2.5% | 3% |
6cm以上 | 3.6% | 3.7% | 6.9% |
2.胸部大動脈瘤手術の実際
瘤の部分を人工血管で置換する手術が大動脈瘤に対する基本的治療です。胸部大動脈瘤治療のガイドラインによると、上記表「胸部大動脈瘤の瘤径別イベント発生率」にも示す通り破裂率が高くなる最大短径6cm以上、あるいは5~6cmでも拡大傾向の胸部大動脈瘤の場合、手術適応とされています。
胸部大動脈瘤に対する人工血管置換術は、大動脈に流れる血流を一旦止めるために人工心肺や低体温・循環停止・脳分離循環など、様々な補助手段を用いる必要があり、かなり大きな手術となります(図2)。
図2 胸部大動脈人工血管置換術:術前後の3D-CT
3.胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術
高齢者や全身状態が不良な患者に対しては、血管内治療で侵襲の少ないステントグラフト内挿術(図3)が新しい治療として注目されています。
ステントグラフトとは金属ステントを人工血管に縫い合わせて作成した特殊な人工血管のことです。この手術は鼠径部を小切開して、大腿動脈から挿入したカテーテルを介してステントグラフトを動脈瘤の前後にまたがる形で留置します。これにより動脈瘤内に血液が流入しなくなり瘤にかかっていた圧が低下することで、動脈瘤の拡大や破裂を予防します。頻回のメンテナンスが必要で、術後定期的な造影CT検査を施行し(図3)厳重なfollow upを要するという問題点があります。
図3 ステントグラフト内挿術前後の3D-CT画像
腹部大動脈瘤
腹部大動脈の正常径は約20mmで、その1.5倍の30mmを越えて拡大した場合に動脈瘤と呼ばれます。
多くの場合は症状がないですが、破裂すると救命は困難となるため予防的に手術を行います。
大動脈瘤ガイドラインによると、手術適応は最大短径が男性で55mm、女性で50mmとすることが推奨されています。
紡錘状瘤と嚢状瘤
瘤の形が嚢状の動脈瘤は紡錘状より破裂の危険性が高いと言われています。
また、瘤の一部が突出している形状も破裂しやすいです。
紡錘状瘤
嚢状瘤
人工血管置換術
ステントグラフト内挿術
開腹手術とステントグラフト
手術は開腹で行う人工血管置換術とステントグラフト内挿術があります。
人工血管置換術は手術としては大きな手術となりますが、胸部に比べると危険性は低く、手術による死亡率は1%未満の方がほとんどです。
人工血管を縫い付けるとその後は大きな問題なく経過される方がほとんどですので、若い方にはこの方法を勧めています。
ステントグラフト手術は手術時間が短く出血量や輸血量は少なく済みますので、手術による体のダメージは少なくて済みます。術後は短時間で食事やリハビリを開始でき、入院期間を短縮することが可能となります。高齢者やハイリスクの患者さんには良い治療法と考えられます。しかし、動脈瘤の形によっては手技が困難となり、どの症例でも出来る方法ではありません。また、瘤内に血液が漏れてしまうことがあるため、定期的に造影CTで検査を続ける必要があり、追加でステント留置が必要となることもあります。