医療関係者の皆さまへ

画像診断検査について

進化する熊本中央病院CT/MRI/RIの特徴

  1. 全ての CT 検査でスペクトラル画像を取得可能

熊本中央病院では2021年末より全てのCT検査においてスペクトラル画像を取得できるようになりました。
従来のCTでは1回の撮影で1種類の画像しか取得できませんでしたが、スペクトラルCTでは撮影に用いるX線のエネルギーを分離することで多くの有益な情報を追加取得できるメリットがあります。もちろん追加撮影するわけではないのでX線被ばくが増えるわけではありません。
スペクトラル撮影の可否について世間一般のCTにおいて現行では3種類に分類でき

  • ① スペクトラル撮影できない(多くのCT装置)

  • ② スペクトラル撮影できるが前もって設定が必要(スペクトラル撮影していない場合は不可)

  • ③ 全ての検査が後からもスペクトラル解析が可能(現在少数のCT装置のみ実現)

以上のパターンがあり、当院の2台のCTはいずれも③になります。このスペクトラルCTにより多くの臨床的に有用な情報を得ることができますので、以下にその有用性を列挙したいと思います。

  • a. 造影 CT との相性が抜群

    CT診断の精度を上げるために造影剤を使用する場面は多いです。この造影剤使用は体重当たりの使用量が定められており、一部の疾患では規定の造影剤量では造影コントラストが不足する場合もあります。このような場合にはスペクトラルCTでは最大3倍の造影効果を得る(40keV画像作成)ことができますので、何と造影剤3本を使用した場合と同等の造影コントラストを得る事ができます(図1)。通常ではあり得ない仮想造影剤大量CT画像で診断することが可能となり診断精度に大きく寄与します(図2)。様々な血管性病変や悪性腫瘍の診断に有用ですが、特に従来CTでは診断が難しい場合も多かった早期膵癌の検出能も向上し日常臨床に活用しています。最大3倍の造影コントラストという利点は、逆に言うと規定量の1/3の造影剤量で従来の造影CTと同等の画像コントラストになりますので腎機能障害の患者さんには福音となります。特に安全に手術を行うための術前血管マッピング(図3)や緊急の場において命にかかわる重要な診断が造影CTでのみ得られる場合などにおいて、従来では腎機能障害の患者さんには造影剤使用を躊躇する場面もありましたが、当院では1/3の造影剤使用で多くの場合問題なく造影CT検査を施行することができるようになりました。

    1. 図1: 希釈造影剤を用いた仮想単色X線画像でのCT値の変化

    2. 図2: 造影効果の低い肝細胞癌の描出能向上

    3. 図3:食道胃接合部癌術前3D血管構築依頼

  • b. 造影剤画像(Iodine no water 画像)の活用

    造影CTを施行する場合に従来CTでは難しかった造影剤の効果のみを強調する画像(Iodine no water画像)を取得可能になりました。この画像を取得することで、従来では造影されたかどうか微妙な病変も評価が容易となり良悪性の診断能向上に役立つようになりました(図4)。逆に造影CTのみで単純CTを作成することも可能ですので、単純CTを省略して被ばく線量を減らす効果を得ることも可能です(図4)。救急CTにおいても腸管虚血の診断に腸管壁の造影効果の評価が容易となりました。さらにこの造影剤画像は造影剤量を定量化できるメリットがあります。このメリットを活用すると、特に肝臓の線維化の推定・膵癌の抗癌剤に対する効果の予測・心筋障害の評価など多くの臨床上有用な所見を得ることが可能となってきました(図5)

    1. 図4:息切れ・胸痛精査のため心臓CT施行

    2. 図5: 冠動脈CT検査と同時に心筋評価も可能

  • c. 非造影(単純) CT でも有用性満載

    スペクトラルCTでは造影剤を用いない場合でも有用性は満載です。
    ① 実効原子番号画像を用いた尿路系結石の成分解析
    (尿酸結石と診断できる場合は投薬治療につながる)(図6)
    ② カルシウム抑制画像を用いた骨折の新旧診断
    (従来CTでは骨折がわかっても新旧が不明な場合も多い)(図7)
    ③ 電子密度画像を用いた存在診断/質的診断の向上
    (従来CTで不可能な物質の密度に重きを置いた診断)(図8)
    ④ 低エネルギーレベルの仮想単色X線画像を用いた脂肪検出
    (従来CTで診断が難しいX線陰性結石や副腎腫瘍の鑑別など)(図9)
    ⑤ 高エネルギーレベルの仮想単色X線画像を用いた金属アーチファクト除去
    (体内金属周囲の診断能向上)
    などが挙げられます。

    1. 図6:腎結石の成分解析

    2. 図7:急性膵炎治療中の背部痛精査急患

    3. 図8: 突然の血圧低下があり肺塞栓血栓症疑いでCT施行

    4. 図9:X線陰性胆石

  • d. 超高速スペクトラル CT の導入

    2台のスペクトラルCTは従来CTよりも高速撮影可能な装置ですが、そのうち1台は超高速スペクトラルCTです。撮影時間は、胸部CTで1秒未満、胸腹部骨盤CTで約2秒程度です。こちらのCTでは息止めが難しい患者さんや心臓CT検査など動きが速い臓器を撮影する場合に特に活用しています (図10)。このCTが導入されてから息止め不良に画像ブレで診断困難となる場面がほぼ皆無となりました。造影剤減量撮影と並んで患者さんに優しい装置と言えます。

    1. 図10:超高速スペクトラルCTの有用性

  • CT 検査を受けられる方へ

  1. 全ての MRI 検査はフルデジタル装置での撮影

当院のMRI装置は3テスラ装置1台と1.5テスラ装置1台の合計2台が稼働しています。従来はアナログ送信のMRI装置でしたが、2台ともフルデジタル装置となり画質が格段に向上しました(図11)。また圧縮センシングという技術を用いることでさらに画質が向上しましたが、時間短縮にメリットを振り分けることも可能となりました(図12)。当院でのMRI装置での特長を部位毎に列挙したいと思います。

  1. 図11:アナログとデジタル装置の違い

  2. 図12:高分解能T2WIにおけるCS(圧縮センシング)の有用性

  • a. 情報量満載の頭部 MRI 検査

    日常ルーチン撮影は、T1WI,T2WI,FLAIR法,T2*WI,頭頸部MRAに加え、非造影潅流画像を撮影するようにしました。これにより造影剤を用いることなく脳実質および脳血流の異常がわかりやすくなりました。また長時間撮影が難しい患者さんには、超高速撮影にて上記の撮影が数分で終了する撮影プロトコルも設定可能です(図13)

    1. 図13:救急患者用の圧縮センシングを用いた高速頭部MRI撮影

  • b. 造影剤を用いず心大血管撮影

    冠動脈精査には造影CTが今やスタンダードですが、スクリーニング検査として造影剤不使用、被ばくのない撮影がMRIで可能です。当院では冠動脈と心筋を評価する心臓ドック検査も短時間で精度良く撮影可能となりました(図14)。また大動脈疾患やその他の血管系においても、造影剤を用いることなく検査を行うことが可能です(図15)

    1. 図14: 心臓ドック撮影

    2. 図15:非造影腎動脈撮影(右腎動脈瘤)

  • c. 胸部 MRI の進化

    一般的に肺のMRIは画像が歪むのでMRI検査の適応にはなりにくいです。ところが当院のMRIは、歪みを最小限にすることが可能なので適応になる場面があります。肺野精査の第1選択検査は通常CTですが、CTで診断が難しい場合に精査としてのMRIがしばしば診断に役立ちます(図16)

    1. 図16:胸部MRIでの臨床的有用性

  • d.高画質な腹部 MRI 検査

    フルデジタル装置にて腹部全般のMRI画像が高画質となりました。胆管や膵管検査であるMRCP検査では、様々な動き補正技術によりほとんどの場合において画像ブレの少ない画像取得ができるようになりました。

  • e. 体幹部全体のスクリーニング MRI 検査(whole body MRI)

    体幹部の悪性腫瘍や炎症のスクリーニング検査です(図17)。PETのような画像です。造影剤不使用・注射なし・被ばくなし・検査時間は30分で終了するという非侵襲性です。悪性腫瘍治療中の経過観察にも有効です。治療効果判定や治療法変更のきっかけとなり得る検査法で、当院では2004年から施行していますが最近話題となっている検査法です。

    1. 図17:全身MRI撮影

  • f. 脊椎・関節・骨軟部検査

    当院の検査の特長として3D撮影(薄いスライス撮影という意味)を十分に行うことが挙げられます。細かい構造を把握するために細かく撮影して詳細な診断を可能とします。フルデジタル撮影および圧縮センシングにより高画質な3D撮影が可能となりました。さらに近年ではMRIで撮影するCTみたいな画像も撮影することが可能となり臨床に応用されています(図18)

    1. 図18:MRIで撮影するCT like imaging

  1. 最先端の前立腺生検法(MRI ガイド下、MRI-US 融合下)

前立腺生検は一般的に超音波を使って行います。ところが前立腺癌が超音波にて描出しづらい難点があるため、系統的生検(前立腺をくまなく10-12カ所生検を行うこと)が推奨されています。このため生検による前立腺癌検出率は一般的には25-40%程度と報告されています。この精度を高めるために事前にターゲット化が難しそうな患者さんには当院では2通りの精度の高い生検を勧めることがあります。従来はMRI室で生検を行うMRIガイド下前立腺生検(図19)を行っていました。この手法は最も生検精度が高く、全国でも当院のみ施行されているため全国から紹介があるほどでしたが、自由診療のため保険適応外というデメリットがありました。そこで近年普及してきた保険適応内のMRI-US融合下前立腺生検(図20)を2022年から開始し前立腺癌診療の一助として活用しています。

  1. 図19:MRIガイド下前立腺生検

  2. 図20:MRI-US融合下(fusion下)前立腺生検

  1. 当院 RI の特徴

当院のRI(シンチ)装置は、SPECT(断層画像)やCTやMRIと融合画像を作成することが可能であり、質の高い検査を目指しています。心筋シンチ、骨シンチ、腎シンチ、脳血流シンチが検査の主体です。心筋シンチではCTを用いた吸収補正画像やCTやMRIとの融合画像を作成し狭心症や心筋梗塞患者さんの治療方針決定に役立てています(図21)

図21. CT と RI の融合画像

RIだけでは実際の病変位置が分かりにくいので、この患者さんのように血管構造はCTで、病変心筋はRIで描出して、実際に治療の対象となる血管(青矢印ではなく赤矢印)を事前に決定することが可能になりました。

  1. 図21-1
  2. 図21-2
  3. 図21-3

骨シンチも最近ではコンピューター診断を取り入れ診断精度を上げています。脳血管内治療が最近当院でも行われるようになったため脳血流シンチが治療方針や治療効果判定に役立っています。

  1. くまちゅう画像ネット(地域医療画像連携ネットワークシステム)

熊本中央病院では平成24年から近隣の病院約50施設との間で「くまちゅう画像ネット」を開始しました。近隣の病院から紹介の患者さんが当院で検査を受けた場合には、即座にオンラインで紹介病院への画像結果返送を可能としました。
このことにより両病院での画像を合わせて経過観察することも可能となり、余分な検査を受けることもなくなりました。 また、オンライン検査予約も可能となりましたので、土日や深夜でも検査予約が可能となりました。実際にこのシステムを開始して、地域医療連携に役立つシステムであることを実感しています。

  1. まとめ

熊本中央病院は、患者さんに優しく精度の高い放射線機器の使用をモットーに常に最新に近い状態で使用できるように、ほぼ毎年のように装置の更新やバージョンアップを行っています。また画像診断も装置1台毎に画像診断医が常駐し、迅速で正確な診断を心がけ日常診療を行っています。このため当院では外来検査後、即座に画像診断レポートを発行することが可能です。
このような体制を整えていますので、熊本中央病院で安心して検査をお受け下さい。